『どらごんぷりんせす・めーかー』


 こんな。夢を見た。
「問おう。君は正義の味方か」と。
 そんなことを、なんだか雪国育ちの泥水っぽい色をした丸っこいものに、とーとつに問いかけられる、ヘンな夢だった。
「というか、なんだお前」
「我が名はマーリン*1。英雄の守護者にして異世の世界。石の中の剣。剣を折り、新たな剣を与える者。我が名は『マーリン』……けして鼠色のスライム*2ではないぞ」
 本人も気にしていたらしい。
「先の質問に答える貰おう。君は正義の味方か?」
「俺は――まだ正義の味方じゃない。正義の味方を目指すものだ」
「ふむ…では問おう」


 ここに一人の少女がいる。
 誰からも愛されなかった少女だ。
 そしてこの世の最期に、母親に殺された少女だ。
 この世に生きて、幸せなことなど一度もなかった。
 しかし彼女は何物にも屈せず、逆境にめげることなく毅然と運命に反旗を翻し、敗北した少女だ。
 ただ一度の敗走もなく、
 ただ一度の勝利もなし。


 問おう、正義の味方の志願者よ。
 君は彼女の味方となるか?


 む。
 そんな少女がいるのなら、本当にそんな境遇に生きる女の子がいるのなら、悩むまでもない。
 正義云々を持ち出す以前に、そんな子を放っておけるわけがないじゃないか。衛宮士郎として。
「でも、その質問に答える前に、ちょっとだけ確認させてくれ」


 スライムもどきの傍らに、すぽっとらいと。
 青い甲冑のちびっこ騎士が。
 水竜の紋章*3やら血まみれのバスタード・ソード*4とか、とかく気になるトコロ満載なのですが、
「その少女って……まさかこのゴツいのじゃないだろうな?」


「誰がゴツいかぁーーーっ」


 がぁーーーっと吠える重甲冑。よろい、がっちゃんがっちゃん。


「これでも脱いだら凄いんだぞ!? ぼん、きゅ、ぽんなんだぞっ!?」


 嘘をつけ。ちびっこ。


「えっと。きみ、だれ?」


「我が名はメディ。醜悪な猪母王*5を斃す為に、反英雄となった」


 そこで再度マーリンが声をかける。
「問おう。衛宮士郎。サーヴァント無きマスターよ。君はこの娘の味方となるか?」


 確かに今の俺にはサーヴァントがいない。
 セイバーは、遠坂と契約を結んでしまったし。


「味方をするのはかまわないけど。それと契約が同義っていうのなら考えさせて欲しい。だって俺、半人前だから魔力の供給量なんて期待されても困るぞ」


 さり気に反英雄*6ってのも気になるトコロで。
 と、そこまで答えて、ふと思った。


「ちょっと待て。メディが現界を望むってことは、その、彼女の母親も現界してるってこと?」


「うむ。あの偽善者にして為政者、アルトリア・ペンドラゴン*7母王は聖杯*8戦争終決後も現界し続けておる。しかも最近はアーサー王であった過去を捨て、アルトリア女王を名乗っているというではないか。『ここに、過去の王にして未来の王アーサーは眠る。』の墓碑はただの墓碑ではなく、世界との契約の証し。一方的に破棄していいものではない。世界はこの矛盾を修正する為に、私に味方してくれた。――かつては一騎討ちで敗北に屈したが、今度こそは」


 くくくと嘲うメディ・ペンドラゴン*9海賊姫。すこぶる怖い。


「え、君、セイバーの娘!? ってことはもしかして――モードレッド*10!?」
「その名で呼ぶなーーーっ」


 うがーーーっと暴れるぷりんせす。


 嵐の様に振り回される腕脚に吹き飛ばされてずたぼろになりながら、俺は思った。
 アルトリア。お前、子育てにすこぶる失敗したっぽい。



――

 何気に前回の続き。
 アーサー王が女性なら、その息子であるモードレッドも女の子でいーじゃん。
 という電波なひらめきによって書き殴ってみる。


 【TYPE-MOON SS投稿掲示*11】がスタイル変更。
 以前のデザインは微妙に使い勝手が悪かったので、閲覧者のヒトリとしてはおー喜び。なのですが。
 でも連続投稿作品の閲覧がしづらいのは相変わらずだよなー、とか
 保管ログが少ない分、リアルで追いかけないと辛いぞコンチクショー、とか
 つい勝手なことを思ってしまうのです。
 ここはアーカイヴ*12にも収録されていないので、一度流れてしまうとお手上げなのですよ。

*1:マーリン:魔法使い。アーサー王の後見人。インキュバスと尼僧の息子。変身の能力を持つ。アーサーと近親のモルゴースの間に生まれた子、モードレッドがアーサーとその王国を破滅させるだろうと予言する

*2:鼠色のスライム:通称“雪ポリン”。種族は植物/属性は水2。生息地はルティエとポリン島のみ http://huntinfo.hp.infoseek.co.jp/map/enemy/251.html

*3:竜の紋章:アーサー王とその騎士団が描かれた絵には、その旗印などに赤い竜が描かれていたり、竜の形をした軍旗としての吹き流しが描かれていることがある

*4:バスタード・ソード:ハンド・アンド・ア・ハーフ・ソード。片手半剣。私生児・偽物・疑似・不純などの意を持つ。ロング・ソード/長剣より長く、ツーハンデッド・ソード/両手剣より短い剣身を持っており、またその刃の形状としても、切ることにも、突くことにも適するように工夫された刀剣。15世紀にスイスで生まれたが、当時は切ることに適した刀剣をゲルマン系、突くことに適した剣をラテン系としており、バスタード・ソードはその両方であるために、bastard/私生児と名付けられたとする説がある

*5:猪母王:アーサー王コーンウォールの猪とあだ名されることがあり、これはアイルランドケルトの猪の神などの伝説を引き継いだものと思われる

*6:反英雄:復讐者。アヴェンジャー

*7:ペンドラゴン:“ペン”には先や頭という意味があったようで、アーサー王の父の名である“ペンドラゴン”という名もこのあたりから生まれた称号と考えられる

*8:聖杯:ケルトの神話を通して、治癒と食物を与える魔力を持った聖杯と大釜の例がある。その大釜はアイルランドの神族トゥアハ・デ・ダンアーンによってアイルランドに与えられた7つの贈り物のうちの一つ。最も明らかな容器の例は、ブランの大釜である。この大釜に投げ込まれた死んだ戦士は復活を果たす。語り手によれば、それは食物を永遠に供給した

*9:ペンドラゴン:ブリテンの宗主に与えられる『称号』。アーサー王伝説では、一般にはウーゼルや彼の兄の名前として記述される。語源はウェールズ語の「竜の頭」「至高の竜」と言われている。ウェールズの紋章は「赤い竜」である

*10:モードレッド:アーサー王の甥、もしくは不義の子。アーサー王がラーンスロットと戦うために国を留守にしているあいだに謀反を起こした。軍勢を率いて舞い戻ったアーサー王との間に最後の戦いを行い、アーサー王との一騎討ちで、アーサー王の額を兜ごと割ったが、槍で胴体を突き抜かれ息絶えたと言う。別に、モルドレッド、モドレッド、メドラウトと呼ばれる。マーリンはそのモードレッドのことを暗に示し、「5月1日に生まれた子供が、アーサーの王国を滅ぼすだろう」と予言する。その結果、王国中の5月1日生まれの子供がモードレッドを含めて集められ、船に乗せて海に流される。しかし、モードレッドは奇跡的に助かり成長し、騎士としてアーサー王の前に現れる

*11:TYPE-MOON SS投稿掲示板 http://feena.jp:81/tmssbbs/

*12:Internet Archive http://webdev.archive.org/index.php