「地球内空洞世界」
その、我々の住む地表世界とは異なる物理法則について。


・斥力*1の発生
・時間経過の変化


ニュートンの古典的重力方程式に無限反射解析を反射端技法で適用すると、距離が遠くなると引力が斥力に変化する重力=斥力方程式が得られる。但し無限反射解析で一般的な「数式」を示すことはできない。コンピュータの計算結果のように数値解析的なグラフでのみ関数形が示される。
今のところ物理法則の無限反射解析の応用による半音階的変調は、ニュートンの重力方程式、マックスウェルの電磁方程式、核力の大きさの距離についての方程式に適用され、100キロ未満の距離では近似的に通常の法則と殆ど際のないことが示されている。つまり引力が斥力に変わるような変調があっても、地上の生物や物質は支障なく空洞世界に存在することができる。


この宇宙のすべての物理現象は四つの基本力――電磁力・強い核力・弱い核力・重力――によって生じている。通常は四つに分類される基本力も、ビッグバン直後に代表されるような高エネルギー状態では統一されて極限ではただ一つの力となってしまうとされている。「統一状態」で電磁力と弱い核力が統一されて、力は三つになる。更にエネルギーが上がると「大統一状態」になり、電磁力・弱い核力・強い核力の三つが一種類の力になる。更に高いエネルギー状態の「超統一状態」では重力も含めた四つが一種類になるといわれている。
このような現代物理学における統一場理論の成果を踏まえて、K・O理論では空洞世界の領域の大部分が大統一状態にあると仮定する。大統一状態によれば電・弱・強の三力統一力は斥力となるので、それが空洞世界で観測される地表面の重力の源であると主張される。
時間経過の変化は、三力統一に伴う分子間距離の接近に起因する「体感時間の短縮」であって、時間そのものは早くも遅くもなっていないと説明されている。
大統一状態は突然発生するのではなく、地表面から地下に潜るに従って臨界状態を経て電弱統一状態を発生し、更に又臨界状態を介して題意統一状態に到る。この過程の電弱統一状態における光子の拘束現象が光速を遅くし、それが地下に潜る途中で一時的に観測される時間の遅延を生じさせる。
このようにK・O理論はC#理論が全く説明できない時間経過の変化や、通常の地上世界から特殊な空洞世界へと到る連続的な境界線を示すことが出来、空洞世界理論として非常に優れていると思われる。
又、地球内部が空洞である為に地球磁場について従来のダイナモ理論が使えなくなったのに対し、統一状態の破れによって生じる強大な電磁場が地球磁場の源になっていると説明している(この点をリーデンブロック教授は「中心太陽の電磁場を地球の磁力源とみて、なんら問題はない」としている)。
K・O理論の難点は空洞世界内部の大規模なエネルギーをどのように排出するかである(エネルギーの規模ではずっと小さいながら排出はC#理論でも問題になるが、地上世界と空洞世界の境界域問題の一部として解決する方針だという)。
この排出問題が「宇津帆理論」を生みだすことになった。空洞世界から排出すべき強大なエネルギーは、応石と月の働きによって排出されてきたとされている。
宇津帆理論は、応石による「周期排出理論」、「月質量化理論」、「新宇宙創世理論」の三つの理論からなる。歴史的にみて最初の排出システムがほぼ自然現象である月質量化システム、次に「崑崙の仙人たち」が確立した応石による六十年周期の周期排出システム、最後に昨年(九十年動乱)、応石が半ば自発的に発動させた新宇宙創世による排出である。いずれの排出においても虚数時空を会したエネルギーの移動が仮定されている。


――「蓬莱学園の復刻! 90年度蓬莱タイムズ&90年度宇津帆島全誌」より

――そしてこの、放っておけば地球をふっ飛ばしかねない空洞世界に充満する巨大なエネルギーの魔術転用を考案したのがゼル・シュバインオーグという人物である。
彼は遠坂永人と共に地表世界から空洞世界に通ずる孔を穿ち、聖杯とされる願望機に流し込んだ。
エネルギーの充填は六十年周期(空洞世界では三六〇〇年周期)。魔術師一人が一生涯掛けても不自由しない莫大な魔力となる。


協会、並びに教会は蓬莱学園における魔術師の群体を半ば黙認し、放置し続けてきた。
それは宇津帆島自体が「地図に表記されていない」「秘匿された場所」であること、蓬莱学園における魔術師が「魔術刻印のない一世代限りの魔術師」であることが大きな理由とされている。つまりは、歯牙にもかけられていなかったわけだ。
90年動乱の起きた当時ですら、「地球最後の秘宝」は眉唾物であり、一説では不老不死であるとされながらも、欧米魔術師組織はそれを否定して極東――南海の孤島における馬鹿騒ぎを対岸の花火と決め込んでいた。
ああ、まったくもってトンデモナイ思い違いだ。


そこは確かに「  」ではない。
しかし地表から姿を消した筈の幻想種が悠然と空を飛び交い、闊歩する、魔力に満ち満ちた世界。
月光洞。
魔術の源が秘匿というのならば、ひた隠しにされ続けてきたこの地球規模の「秘匿されし幻想郷」――そこに思いを馳せない魔術師など、今すぐ刻印を捨て去るべきだ。

――

*1:磁石の北極同士のように二つの物体が互いに跳ね返そうとする力。←→引力